事業所税とは地方税の一種で、都市環境の整備及び改善に関する事業の費用に充てるため、市内に所在する事業所等が行う事業に対して課される税金です。
- 事業所税の課税団体
- 課税対象
- 納税義務者
- 課税標準(資産割・従業者割)
- 資産割・従業者割の税額と免税点
- 事業所税の注意点
- 免税点
- 免税点以下となる場合でも申告が必要な場合
- 非課税
- テナントの共有部分について
事業所税の課税団体
事業所税は地方税であるため地方自治体が課税団体ですが、現在のところ指定都市や人口30万人以上の市などであり、一定規模の都市を有する地区のみで課税される税金となっております。
課税対象
課税対象は「事業所(事務所)等で行われる事業」であってその事業所等は自己保有か賃貸かは問いません。即ち、事業所税の課税地区で仕事をするのに事業所を有する場合には課される税金であるため、下記で説明する免税対象でない限りは課税対象となります。
納税義務者
納税義務者は「事業所(事務所)等において事業を行う法人又は個人」となっており、法人・個人問わず納税義務が発生します。
課税標準(資産割・従業者割)
事業所税は、事業所床面積を課税標準として課する「資産割」と、従業者の給与総額を課税標準として課する「従業者割」の二種類によって構成されている税金です。
資産割・従業者割の税額と免税点
【資産割】
(税額)
事業所延床面積(㎡)×600円
(免税点)
地区内合計延床面積(非課税部分を除く)が1,000㎡以下
【従業者割】
(税額)
課税期間中に従業者に支払われた給与総額
(免税点)
地区内合計従業者数(非課税に係るものを除く)が100人以下
上記のように全国の大都市に多く事業所を構えている大企業には、その課税対象の地区毎に課税標準の資産割・従業者割の集計・計算・申告・納税をしなければならないので手間と負担がかかるということになります。
ただ、集計・計算方法については、どこの地方自治体の事業所税の手引きもこのような事が書かれており、個人的に事業所税の手引きはどの税金よりも分かりやすく具体例も多く記載されているので、詳細はやはり手引きを参考にするのがよいでしょう。
ただし、それでも注意しなければならないことも多々あるため、応用的なものと注意点などを下記にまとめます。
事業所税の注意点
実質課税
事業所税は建物(事業所)を誰が保有しているかではなく、その建物を実質誰だ使用しているかで判断されるため、賃貸やテナントだとしてもその場所で事業を行っている法人または個人に納税義務が発生します。
みなし共同事業
みなし共同事業については、みなし共同事業に該当するかの判断が難しいため、地方自治体のHPにも「『みなし共同事業』に係る事業所税について」など手引き同様、詳細に考え方等が記載されているのでとても参考になります。
簡単な考え方としては、親族などの個人又は同族会社に該当する特殊関係者を有していて、その特殊関係者と同一家屋で事業を行っている場合には、共同事業とみなされて連帯して納税義務を負うことになります。
〈パターン①〉
親会社A社(床面積700㎡)と100%子会社B社(床面積500㎡)が同一家屋で事業を行っている場合、 A社が「特殊関係者を有するもの」となって、B社が「特殊関係者」に該当します。
(A社の事業所税)
A社の免税点の判定は700㎡+500㎡=1,200㎡となるため、課税対象となります。
但し、課税標準は700㎡となります。
(B社の事業所税)
B社はB社のみで判定するため、500㎡で免税点以下となり、課税対象外です。
(パターン②)
親会社C社(床面積700㎡)と100%子会社D社(床面積600㎡)と100%子会社E社(床面積500㎡)が同一家屋で事業を行っている場合、 親会社が「特殊関係者(D社・E社)を有するもの」となって、D社も「特殊関係者(E社)を有するもの」となり、さらにE社も「特殊関係者(D社)を有するもの」に該当することとなります。
(C社の事業所税)
C社の免税点の判定は700㎡+600㎡+500㎡=1,800㎡となるため、課税対象となります。
但し、課税標準は700㎡となります。
(D社の事業所税)
D社の免税点の判定は600㎡+500㎡=1,100㎡となるため、課税対象となります。
但し、課税標準は600㎡となります。
(E社の事業所税)
E社の免税点の判定は500㎡+600㎡=1,100㎡となるため、課税対象となります。
但し、課税標準は500㎡となります。
税制非適格ストック・オプション
従業者割にはどこまで含めればよいのかは事業所税の手引きから「所得税法上の取扱い上課税とされる給与・賞与・手当」が従業者割の集計対象となり、所得税法上の取扱い上非課税とされる退職金・年金等は集計対象外となります。
そのことから1つ例をあげると、税制適格ストック・オプションと税制非適格ストック・オプションの場合、事業所税だけを考えると税制非適格ストック・オプションのみ事業所税の課税標準集計対象となります。その理由は税制適格ストック・オプションについては、給与所得に該当するものがなく全て譲渡所得になりますが、税制非適格ストックオプションについては、譲渡所得だけでなく給与所得も発生するため、その給与所得部分について事業所税の計算対象となります。
給与所得に該当するかどうかで判断
事業所税の課税標準(従業者割)を集計していると、含めるものか含めないものか判断に悩むパターンもあると思いますが、上記のストック・オプションの考え方のように給与所得に該当するかどうかで判断することができます。
免税点
【資産割】
該当地区の事業所床面積の合計が1,000㎡以下である場合には課税になりません。
【従業者割】
該当地区の合計従業者数が100人以下である場合には課税になりません。
免税点以下となる場合でも申告が必要な場合
①前課税標準の算定期間について納付すべき税額があった場合
②事業所床面積の合計が800㎡を超える場合もしくは従業者数の合計が80人を超える場合
上記①・②のどちらかを満たす場合には納税はなくても申告のみ必要となります。
非課税
【資産割】
非課税とされる施設は病院、学校、水道やガスなどのインフラ事業施設、社会福祉施設など多々あり対象施設は多くあり、事業所税の手引きにも具体的な施設名や詳細が掲載されているため、参考するのがよいでしょう。
また、施設自体の他に福利厚生施設も非課税となる部分があります。業務とは関係なく従業員が利用するための福利厚生施設が非課税に該当します。
こちらも手引きに掲載されておりますが、よくあるものでいえば保養所、食堂、休憩室などが該当し、この部分については、延床面積から非課税部分を控除してよいこととされています。
【従業者割】
・65歳以上(役員を除く)
・障がい者(役員を除く)
・雇用改善助成対象者(55歳~65歳未満で雇用保険法等の国の助成の対象となっている者)
役員を除く65歳以上及び障がい者については、従業者の人数に含めず、課税標準の給与総額にも含めませんが、雇用改善助成対象者については、従業者の人数に含めて、課税標準の給与総額にはその者の2分の1のみ含めないこととなっています。
その他、非課税とは関係ありませんが、出向社員やパートタイマーなどについて、人数・給与総額に含めるかどうかも「事業所税の手引き」で確認できます。
テナントの共有部分について
商業ビル・オフィスビルなどテナントに入っている場合、賃貸している床面積の他にビルのエントランス部分やエレベーター、共有ラウンジなど様々な共有部分があります。
この部分についてもテナント入居の事業を営んでいるそれぞれの法人・個人が事業所税納税の対象となります。
ただ、この共有部分の計算については、かなり煩雑なため、テナントの貸主に計算を依頼しましょう。商業ビル・オフィスビルの場合、オーナー側も必要な対応と認知されている場合が多いため、計算に時間は要するかもしれませんが、依頼すると応じてくれます。
計算方法は【共用部分の床面積】×【当該事業者の専用部分の床面積】÷【その他専用部分の床面積合計】です。